覚せい剤使用の初犯は「執行猶予つき」が普通!? 実際の「刑」はどう決まるのか?
東大病院に勤務していた28歳のエリート研修医が、覚せい剤使用の疑いで書類送検――。
そんなショッキングなニュースが伝えられている。
報道によると、この研修医は2月中旬、東京・池袋のホテルで、知人から購入した覚せい剤を使用した。自責の念に駆られた男は2月下旬、警視庁に自首。警視庁が男の毛髪を検査したところ、覚せい剤の成分が検出されたという。
覚せい剤が違法であることは、誰でも知っているだろう。では、今回のように自分で使用した場合、もし裁判になったら「刑の重さ」はどれくらいになるのだろうか。高岡輝征弁護士に聞いた。
●刑の重さを判断する「3つのポイント」
「覚せい剤の自己使用は、覚せい剤取締法違反になり、その法定刑は、10年以下の懲役(41条の3第1項1号)です。
裁判では、その法定刑の範囲内で、裁判官がどのような刑にするかを判断します。これを『量刑』といいます」
覚せい剤自己使用の量刑を判断する際に、ポイントとなる点は?
「通常の犯罪の場合、(1)犯行の動機や方法、常習性、犯行によって生じた結果などの『犯情』(犯罪行為に関する事情)のほか、(2)犯人の年齢や性格、経歴、環境、反省の態度などの『情状』、さらに、(3)他の人が同じような犯罪をしないようにし、本人を矯正して将来犯罪を行わないようにするという『予防』の観点を考慮します」
●量刑が「重くなる」のはどんなとき?
こうした判断ポイントを踏まえて、量刑はどんなことがあれば「重く」なり、何があれば「軽く」なるのだろうか。
「覚せい剤自己使用の場合、特に考慮される事情として、常習性や使用量があげられます。通常一回の使用量は、0.03グラムと言われていますが、それより多いと、0.03グラムでは足りない体ということで、依存性が推認されます。
また、他人を巻き込んでいれば、量刑は重くなる傾向があります。
一方で、監督者がいたり、二度としないための方策や、真摯な反省があったり、社会的制裁を受けていたりすれば、量刑はそのぶん軽くなるでしょう。
たとえば、逮捕・起訴により勤め先をクビになったり、新聞で報道されて自分や家族の世間体が悪くなっていれば、『社会的制裁を受けた』とされます。
また、覚せい剤事犯の量刑にあたっては、他の人が好奇心から覚せい剤を使用することを防ぐために、ある程度刑を重くするという『予防』の観点が強く働くという特徴があります」
●「懲役1年6か月、執行猶予3年」が相場
相場のようなものはあるのだろうか?
「そうですね。平等性・公平性を保つため、『量刑相場』と呼ばれるものがあり、通常それを逸脱するような判断はされません」
覚せい剤自己使用の相場は?
「覚せい剤自己使用で初犯の場合、量刑相場からすると、『懲役1年6か月、執行猶予3年』程度でしょう」
なるほど。自首した点は考慮されるのだろうか?
「自首があった場合、裁判所は任意で『刑を減軽することができる』とされています(刑法42条1項)。ただ、実務上、この規定は、もともとの法定刑よりも量刑を軽くしようとするときに限って適用されると考えられています。
覚せい剤自己使用の法定刑は、もともと懲役10年~懲役1か月と幅が広く、その範囲で量刑を選択すれば十分といえるので、自首の規定の適用はされないでしょう。
ただし、『情状』として考慮され、量刑を軽くする要因にはなりますね」
●「経歴」は量刑に影響か?
当時、研修医だったことは関係する?
「経歴は、本人の勤勉さなどを示す情状として、量刑を軽くする要因となります。
また、経歴が高い分、社会的制裁も大きく、今後の勤め先が限られてくるでしょう。さらに、新聞で報道されて自分や家族らの世間体が悪くなったり、社会的な評価が低下していれば、それも量刑を軽くする要因として働く面があります」
そうなると、量刑は相場よりも軽くなる?
「その可能性はないわけではありません。しかし、これぐらいの事情は誰しもあるものですから、大きな影響を及ぼすとは思えません。
また、ここで、さきほどの『予防』の観点の考慮も入ります。本件を軽くすれば、他の人との関係で、その自首を促す効果があると考えられる一方で、『東大の研修医だから軽くなったのだろう』という見方もされかねません。ですので、裁判官は、安易に軽くすると逆効果になりかねないということを考えるはずです。
そこで、量刑相場どおり、懲役1年6か月執行猶予3年か、それに近い量刑がなされるのではないでしょうか」
高岡弁護士はこのように話していた。