「金パブ中毒」市販薬をドラッグ代わりにトリップする人たち
朝晩の冷え込みが本格化する一方で、突然の夏日が訪れたりと、気温の変化が著しい今日この頃。風邪をひく人が増えているが、風邪薬を飲むのは症状が出ている時に限る方がよさそうだ。
特に市販薬は、自己流な飲み方になりがち。飲みすぎて、いつのまにか依存化してしまうリスクもあるので要注意だ。
ネットで話題の「金パブ中毒」とは?
巷では「金パブ中毒」なる現象が起きている。「効いたよね、早めのパブロン」のCMでおなじみのパブロンシリーズの「パブロンゴールド=金パブ」(大正製薬)だ。
金パブを頻繁に使ううちに手放せなくなり、毎日、大量に摂取するようになる依存者は少なからずいる。
原因は主に、パブロンゴールドに含まれているジヒドロコデインリン酸塩だ。このジヒドロコデインリン酸塩やリン酸コデインなどのコデイン類の成分は、咳を鎮める効果に優れている。
咳は本来、異物が体に入り込まないようにするための防御反応で、脳内の「咳嗽(がいそう)中枢」という神経中枢がコントロールしている。
咳嗽中枢の働きを抑えれば、止まらない咳も抑えることができるのだが、その感覚が「ふわっと気持ちいい」のと、依存性があるのとで、いつのまにか薬を手放せなくなる傾向のある薬だ。
同じ鎮咳剤で「非麻薬性」があるのに対し、コデイン類はアヘン由来の成分で、「麻薬性」中枢性鎮咳薬に分類される。
麻薬性といっても医療用なので、もちろん安全レベルの含有率なのだが、大量服薬すれば事情が変わってくる。コデイン類の麻薬性に魅了され、1日1箱ペースで乱用する「金パブ中毒者」もいるぐらいだ。
咳止めシロップはウケがいい?
咳止め効果の高いコデイン類は、何も金パブ特有の成分ではない。その他の風邪薬や、特に咳止め薬の多くに含まれている。
金パブと同じく、いや、もしかしたらそれ以上にウケがいいのは、「エスエスブロン錠」(エスエス製薬)だ。金パブもそうなのだが、コデイン類に加え、エフェドリンが含有されているからだ。
エフェドリンは、生薬の麻黄に由来する成分だが、覚せい剤に似た交感神経の興奮作用がある。もちろん覚せい剤ほど強力ではないが、スポーツ選手のドーパミン偽陽性反応に関わることもあるパワーアップの成分だ。
また、咳止め薬のシロップタイプも<ウケ>がいい。体内吸収がいいのだ。錠剤や粉薬に比べ、そのまま飲める飲みやすさも、シロップならではの利点。薬局で購入後、その場でただちに飲み干せる手軽さがある。
「咳止めシロップをごくごく飲むとトリップできる」という話が、まことしやかに伝わっているが、一気飲みすれば、人によっては「ふわっとした心地」を強く感じるので、あながち嘘ではない。
ましてや、1回に2~3本まとめて飲めば、いい「景気づけ」になるという。それを1日に1度ならず、何度も繰り返す人々もいる。
あの有名人も咳止めシロップでトリップ!?
昨年12月、叶姉妹の妹・叶美香さんが、急性アレルギー反応のアナフィラキシーショックで緊急入院したが、一部では、「咳止めシロップを大量に飲んだ」、つまり大量服薬(オーバードーズ)したと報道されている。
そこまで来たら、薬物依存の領域である。正しい判断力や言動を保てず、仕事や家庭に問題をきたし、生活が破たんする人も現れる。自力でその状態から脱するのは難しく、精神科の加療が必要だ。
薬物を体内から抜くときの離脱作用は、苦しいものだ。とても自宅で自力でとはいかず、精神科病院に入院するケースが多い。薬物が抜けて、身体面の依存が軽減しても、精神面の依存に向き合う努力が必要だ。
薬に頼ろうと気持ちや習慣に打ち勝つのも、なかなか自力でできることではない。多くの人の力を借りて、長いリハビリ期間を経て、ようやく社会復帰の一歩に踏み出せるかどうか。
回復したとしても、安価ですぐ手に入る市販薬の薬物依存は、スリップ(再び使用すること)してしまう危うさが大きく、一生自分との闘いとなる。
本来であれば、健康を取り戻してくれる、いたって合法の風邪薬や咳止め薬だが、使い方をあやまると、ドラッグのように一生を棒に振る状態に陥るリスクはある。
体調を崩しやすい季節だが、市販薬といえども、用法・用量はきちんと守りたい。
via – Health Press